選び方の物差しと早見表
AI 生成・木下が未勉強
量子力学の様々な構成方法 第11部 第2章 §11.2.1 ★★★ 構成の選び方を「基本の対象から答えまでの手数」と「基本の対象の大きさ」で測り、9つの構成の得意と苦手を各部の章への索引として1枚の表にする
第1部から第10部まで、量子力学を9つの出発点から1つずつ組み立てた。どの部でも、出発点の要請を置き、基本の対象を決め、基準(第1部の状態ベクトルと演算子)との同値を示し、共通例題を解き、その構成が得意な問題と限界を確かめた。同値性の地図と、共通例題①②③の答えを全部の部の言葉で並べた表は 第11部第1章 に置いた。地図は「どの構成からどの構成へ移れるか」を示す。この章はもう1つの向きを受け持つ。手元に解きたい問題があるとき、どの構成から始めると答えまでの手数が少ないか、どの構成では手数が増えるか、を問題の側から引けるようにする。
同値性の橋が架かっている範囲では、どの構成で解いても同じ答えが出る。したがって構成の選び方は正しさの問題ではなく、手数の問題である。1節では手数を測る物差しを決め、9つの構成の得意と苦手を早見表にする。表の各行は、その構成の得意を示した実在の章と例題、および限界を示した章へ送る。2節から5節では、表の行を4つのまとまりに分け、それぞれで同じ問題を2つの構成で解き比べる小さな計算を置く。束縛状態のスペクトル(行列力学と経路積分)、開放系と量子光学(密度行列と位相空間)、多体と超流動(第二量子化と流体)、答えが数でなく定義や起源である問い(代数・再構成・幾何学的量子化)の4つである。6節は「橋」の節で、ある構成で解きにくい問題に当たったときに、地図のどの橋を渡ってどの構成へ移ればよいかを表にする。7節で巻全体をまとめ、次に読む先を挙げる。
記号は各部の章に揃える。1自由度の座標は 、光のモードの複素振幅は ()、Rabi 周波数は と書く。
4つの物差し
構成を選ぶときに比べる量を、次の4つに決める。
第一に、答えに要る量がその構成の基本の対象にじかに入っているかどうかである。束縛状態のエネルギー準位は、行列力学では交換関係の代数の表現の固有値そのもので、梯子の補題と正値性だけから出る(第2部第4章)。経路積分で同じ準位を出すには、伝播関数の対角和 を作ってから の和に展開し直す必要があり、時間分割を有限で止めると準位がずれる(第3部第7章)。逆に、伝播関数そのものや古典の軌道のまわりの展開は、経路積分では作用 の停留点を探すだけで出るが、行列力学では演算子の指数関数を評価しなければならない。
第二に、基本の対象の大きさである。純粋状態だけを扱うなら状態ベクトルが最も小さく、密度行列は同じ情報を次元の2乗の数で持つ。Gauss 型の状態だけを扱うなら、位相空間の は平均と共分散の数個の数で閉じる。同種粒子の多体系では、対称化した部分空間だけを扱う第二量子化が、区別できる粒子の積空間よりはるかに小さい。計算機で解くときの手数は、ほぼこの大きさで決まる(例題 11.2.1)。
第三に、問題の小さいパラメータがその構成の中で自然に現れるかどうかである。 の古典極限は、経路積分では停留位相として、位相空間では Moyal 括弧の の項として、流体では量子ポテンシャル として、それぞれ1つの項にまとまって現れる(第3部第4章・第5部第3章・第7部第2章)。環境との結合が弱く環境の記憶が短いという Markov の近似は、密度行列の Lindblad 方程式として現れる(第4部第5章)。凝縮体の平均場は、第二量子化の場の演算子を c 数に置き換える操作として現れる(第6部第7章)。近似を入れる場所が1つの項にまとまっている構成で解けば、近似の誤差もその項の大きさで見積もることができる。
第四に、問いの答えが数か、定義や起源かである。「相転移とは何か」「Born の規則はなぜ の形か」「スピンはなぜ半整数をとれるのか」は、どれも数値を求める問いではない。これらに答える構成は第8部から第10部の3つで、そこでは具体的な数値の計算はかえって手数が増える。
早見表
4つの物差しで各部の結果を読み直すと、表 11.2.1 の早見表になる。2列目の構成が、1列目の問題を最も短い手数で解く構成である。3列目はその得意を実際に示した章と例題で、4列目はその構成では解きにくい問題と、それを示した章である。第1部第1章の長所と短所の表(第1部第1章)は構成ごとに長所と短所を並べた。この表はそれを問題の側から引けるように並べ替え、各部で解いた結果を書き込んだものである。
| 問題 | 構成 | 得意を示した所 | この構成では解きにくい問題 |
| 測定・合成系・もつれの基本 | 状態ベクトル(基準) | 公理 Q1〜Q6 だけで Rabi 振動と Bell 状態を解く(第1部第2章の例題・同 Bell 状態の例題) | 部分系・混合状態(第4部第1章)、無限自由度の相(第8部第3章) |
| 束縛状態のスペクトル | 行列力学(第2部) | 調和振動子・角運動量・水素を代数だけで(第2部第4章・同 水素)、回路の準位と transmon(第2部第5章の例題) | 演算子の順序の曖昧さ(第2部第2章)、区間・円の上の運動量で表現が一意でない(第2部第6章)、高い準位は基底の打ち切りが大きくなる(2節) |
| 古典極限・伝播・トンネル・場の理論 | 経路積分(第3部) | 自由粒子と Mehler 核を Gauss 積分で(第3部第3章)、Van Vleck の公式(第3部第4章)、瞬間子と Aharonov–Bohm(第3部第7章の例題・同 AB の例題)、虚時間で分配関数(第3部第6章) | スペクトルは遠回り(第3部第7章)、実時間の は測度でない(同)、特異なポテンシャル(同) |
| 開放系・熱平衡・量子情報 | 密度行列(第4部) | 浄化と Schmidt 分解(第4部第2章)、アンサンブルの不定性と信号の送れなさ(第4部第3章)、Lindblad 方程式と ・(第4部第5章の例題)、猫状態の干渉の減衰(同 猫状態の例題) | 強い結合・環境の記憶・初めの相関、Caldeira–Leggett 方程式の正値性(第4部第6章)、大きな系では成分の数が次元の2乗(1節) |
| 量子光学・半古典 | 位相空間(第5部) | 光の状態の P・W・Q(第5部第6章)、スクイーズと猫状態(同 スクイーズの例題・同 猫状態の例題)、Moyal から Liouville へ(第5部第3章) | 多モードの非 Gauss・2次でない ・有限次元・フェルミ粒子(第5部第6章)、負の値は確率でない(第5部第4章) |
| 多体と物性 | 第二量子化(第6部) | フォノン・マグノン・正孔・Hubbard 模型(第6部第4章)、Bose–Einstein 凝縮(第6部第5章の例題)、Bogoliubov 理論と自然放出(第6部第7章) | 強い相関(書けるが解けない)・無限体積の Bogoliubov 真空・相対論(第6部第7章)、平均場が誤った秩序を出す(第6部第4章の総合問題) |
| 超流動・古典の流れの見え方 | 軌道と流体(第7部) | 渦の量子化と GP 方程式の流体形(第7部第3章)、 で Hamilton–Jacobi(第7部第2章)、基底状態は Ornstein–Uhlenbeck 過程(第7部第5章) | 多時刻の相関が基準と食い違う(第7部第6章・第7部第4章の例題)、配置空間・スピン・節(第7部第6章)、循環の量子化は別に課す(第7部第1章) |
| 相転移・対称性の破れの厳密な定義 | 代数的量子論(第8部) | KMS 状態が複数あること=相転移(第8部第4章)、強磁性と BCS 状態が Fock 表現と非同値(第8部第5章)、無限自由度の非同値な表現(第8部第3章) | 具体的な数値は平均場や第二量子化で出す、平均場の時間発展にノルムの極限が無い(第8部第5章) |
| 「なぜ量子力学か」 | 公理からの再構成(第9部) | Gleason の定理で Born の規則(第9部第2章)、Kochen–Specker(第9部第3章)、一般確率論で (第9部第4章の例題)、局所トモグラフィーが複素数を選ぶ(第9部第5章) | ハミルトニアンを選んで動力学を解く問題は扱わない、2次元で Gleason が破れる(第9部第2章)、無限次元への延長 |
| 量子化の手続きそのもの・スピンの起源 | 幾何学的量子化(第10部) | Groenewold–van Hove(第10部第1章)、整数条件と Dirac の単極子(第10部第3章)、球面の量子化でスピン・半形式で零点(第10部第5章・同 零点の例題) | 前量子化は大きすぎる(第10部第3章)、偏極が取れない相空間・偏極で答えが変わる(第10部第6章) |
表の行は排他的ではない。たとえば熱平衡の調和振動子は、行列力学(等比級数)、経路積分(虚時間の Gauss 積分)、密度行列()、位相空間(Gauss 型の )、代数(KMS 条件)のどれで解いても手数が少ない。2次のハミルトニアンではどの構成の基本の対象も閉じた形を持つので、共通例題はどの部でも解けた。2次でないハミルトニアン、混合状態、多くの自由度、近似を入れる場所のいずれかが問題に入ると、早見表の行どうしの手数の差が大きくなる。
図 11.2.1 問題からどの構成で始めるかを選ぶ流れ。左は数を求める問題で、問題の種類から構成が決まる。右は答えが定義や起源である問いで、第8〜10部の構成が答える。破線の枠は、選んだ構成で解きにくくなったときに渡る橋の例(11.2.6節の表 11.2.3)
例題 11.2.1 基本の対象の大きさを数える ★★
オリジナル次の3つの系で、基本の対象を書くのに要る実数の個数を構成ごとに数えよ。
- (1) 10 個の量子ビット。純粋状態を状態ベクトルで書く場合と、一般の状態を密度行列で書く場合。
- (2) 平均の光子数 の熱的な光の1モード。光子数 で Fock 基底を打ち切り、捨てる確率を 未満にするときの と、打ち切った密度行列の実数の個数。位相空間で書く場合。
- (3) 6 つのサイトに入る 6 個のボース粒子と、3 個のフェルミ粒子。区別できる粒子の積空間の次元と、対称化(反対称化)した部分空間の次元。
解答
(1) 状態ベクトルは 個の複素数で、規格化と全体の位相で実数2つ分が決まるので、実数の個数は である。密度行列は のエルミート行列で、トレースが1なので実数の個数は である。混合状態まで書くと、基本の対象は約 500 倍大きくなる。
(2) 熱的な光の光子数の分布は で、等比級数を足すと の確率は
になる。これが を下回る条件は で、 である。打ち切った密度行列は で、一般の状態なら実数 個を持つ(熱的な状態そのものは対角なので 144 個で済むが、損失や駆動が入れば非対角の成分が生じる)。位相空間では、Gauss 型の状態は平均 の2つと共分散の3つ、合わせて5つの実数で決まり、熱的な光は の1つだけで と書ける(第5部第6章)。
(3) 区別できる粒子なら、各粒子が 6 つのサイトのどれにいるかで 次元になる。ボース粒子の対称化した部分空間の次元は、6 つのサイトに 6 個を重複を許して配る組合せの数 である。フェルミ粒子 3 個では、積空間が 次元、反対称化した部分空間が 次元になる。第二量子化の占有数の基底 は、はじめからこの小さい部分空間だけを張る(第6部第2章)。3つの系のどれでも、問題の性質(純粋か混合か、Gauss 型か、同種粒子か)に合った構成を選ぶと、基本の対象が桁違いに小さくなる。
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