量子力学の様々な構成方法 第2部 第5章 §2.5.6 ★★★ 電荷の流儀と磁束の流儀は正準変換で結ばれ、磁束表示・電荷表示は基準の位置表示・運動量表示に当たる。Heisenberg 方程式は Kirchhoff と Josephson の関係そのもので、ng は非同値な表現を選ぶ
電荷を座標にするか、磁束を座標にするか
2.5.1 節の終わりで、電荷 q を座標、Φk=Lindq˙ を運動量にする流儀を挙げた。LC 回路で2つの流儀の変数を比べる。q はコンデンサの電荷だから q=Q。インダクタの鎖交磁束 Φk=Lindq˙=LindQ˙ は、Hamilton 方程式 Q˙=−Φ/Lind により
Φk=−Φ,(q,Φk)=(Q,−Φ)(2.5.30)
である。符号は、q˙ をコンデンサへ流れ込む向き、節点の磁束の電流 Φ/Lind をインダクタを接地へ流れる向きにとったことによる。写像 (Φ,Q)↦(Q,−Φ) は{Q,−Φ}=−{Q,Φ}={Φ,Q}=1 を保つ正準変換で(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第15章)、量子化すると
[q^,Φ^k]=iℏ⟺[Q^,−Φ^]=iℏ⟺[Φ^,Q^]=iℏ(2.5.31)
となる。電荷の流儀で書いた [q^,Φ^k]=iℏ は「[Q^,Φ^]=iℏ」の形に見えるが、そこでの磁束はインダクタの鎖交磁束で、この章の節点の磁束と符号が逆である。2つは同じ1本の交換関係を別の変数で書いたものにすぎない。
磁束表示と電荷表示=位置表示と運動量表示
第1部第3章で、波動関数は状態ベクトルの位置表示 ψ(x)=⟨x∣ψ⟩ であり、運動量表示 ψ~(p) とは Fourier 変換で結ばれることを見た。回路では
磁束表示: ψ(Φ)=⟨Φ∣ψ⟩, Q^=−iℏ∂Φ∂;電荷表示: ψ~(Q)=⟨Q∣ψ⟩, Φ^=iℏ∂Q∂(2.5.32)
で、LC 回路の Schrödinger 方程式は磁束表示で [−2Cℏ2∂Φ2+2LindΦ2]ψ=Eψ、電荷表示で [−2Lindℏ2∂Q2+2CQ2]ψ~=Eψ~ である。どちらの表示でも同じ形の振動子の方程式で、慣性の役が C と Lind で入れ替わる。これが (2.5.30) の正準変換を表示の言葉で言い直したものである。
島のある回路では事情が変わる。電荷 n が整数なので電荷表示は数列 ψ~(n) になり、位相表示は周期関数 ψ(φ) になって、2つは Fourier 変換でなく Fourier 級数で結ばれる。第1部第3章の「ハミルトニアンの一番大きい項を対角にする表示を選ぶ」という指針は、ここでも当てはまる。EC≫EJ の Cooper 対の箱では電荷表示((2.5.20) の対角が大きい)、EJ≫EC の transmon では位相表示の井戸の底の振動子の基底が自然である。
Heisenberg 方程式は Kirchhoff と Josephson の関係
第2部第3章で、正準変数の Heisenberg 方程式は Hamiltonian の順序に依らず、古典の正準方程式に帽子を付けた形で厳密に成り立つことを示した。回路に当てると、LC 回路ではΦ^˙=[Φ^,H^]/(iℏ)=Q^/C、Q^˙=−Φ^/Lind で、電圧の定義と Kirchhoff の電流則が演算子の等式として成り立つ。接合の Hamiltonian (2.5.18)(ng=0)では、[φ^,n^2]=2in^ と [n^,cosφ^]=isinφ^((2.5.19) から)により
dtdφ^=ℏ8ECn^=ℏ2eV^,2edtdn^=−ℏ2eEJsinφ^=−Icsinφ^(2.5.33)
を得る(V^=Q^/CΣ=2en^/CΣ、8EC/ℏ=4e2/(ℏCΣ))。第1式は Josephson の電圧の式 (2.5.15)、第2式は島の電荷が接合を流れる電流 Icsinφ^ の分だけ減ることを言う。Josephson の2つの関係は、量子化した接合の Heisenberg 方程式として出てくる。古典の回路方程式と違うのは、sinφ^ の期待値が sin⟨φ^⟩ に等しくないことだけで、ここに量子のゆらぎが入る。
ng は表現を選ぶ:Stone–von Neumann の外側
位相表示で (2.5.18) を書くと n^=−i∂φ で、周期関数 ψ(φ+2π)=ψ(φ) の上にH^=4EC(−i∂φ−ng)2−EJcosφ が働く。χ(φ)=e−ingφψ(φ) と置き換えると(−i∂φ−ng)ψ=eingφ(−i∂φχ) なので、Hamiltonian から ng が消える代わりに境界条件が
χ(φ+2π)=e−2πingχ(φ)(2.5.34)
にねじれる。これは周期ポテンシャルの Bloch 関数の境界条件で、ng が擬運動量に当たることを式で確かめたことになる。同じ形は、磁束 ΦAB が貫く輪の上の荷電粒子(Aharonov–Bohm)にも現れ、そこでは ng の役を ΦAB を磁束量子で割ったものが受け持つ。
この事実は表現論の言葉で言い直せる。n^ と S^=eiφ^ の生成する代数(S^†n^S^=n^+1)には、n^ のスペクトルが Z+θ(0≤θ<1)となる既約な表現が θ ごとに1つずつあり、θ が違えば n^ のスペクトルが違うのでユニタリ同値でない。θ はまさに ng の小数部分である(n^−ng のスペクトルが Z−ng)。実数直線の上の [x^,p^]=iℏ には本質的に1つの表現しかない(Stone–von Neumann の定理、第2部第6章)が、座標が円の上にあるとその一意性が崩れ、物理的に区別できる量子化が連続無限個ある。transmon の電荷分散は、この「違う表現の間でエネルギーが違う」ことの大きさを測っている。表現が分かれることは、無限自由度の場合(第8部第3章)と、幾何学的量子化で線束の取り方が複数あること(第10部第3章)に続いていく。
経路積分・密度行列・学部の回路の式との対応
回路の Lagrangian (2.5.2) を作用 S[Φ]=∫Ldt にすれば、回路の量子論は経路積分 ∫DΦeiS[Φ]/ℏ でも書ける(第3部第2章)。虚時間の作用 SE=∫(2CΦ˙2+U(Φ))dτ は、接合の井戸からの巨視的な量子トンネルの率を出すのに使われ、抵抗による散逸は Caldeira–Leggett の熱浴を足した影響汎関数として入る(第3部第7章・第4部第6章)。熱平衡の回路は ρ^=e−βH^/Zth で、(2.5.12) はその期待値である(第4部第4章)。
学部の回路の授業では、LC 回路を複素インピーダンス Z(ω)=iωLind+1/(iωC)(工学の eiωt の流儀では i の代わりに j)の零点として共振の角振動数 ω=1/LindC を出し、特性インピーダンス Lind/C を整合の条件に使う。この章の形との対応は
共振 ω=LindC1 ⟷ 準位の間隔 ℏω,特性インピーダンス Z ⟷ 零点のゆらぎ Φzpf2=2ℏZ, Qzpf2=2Zℏ
である。古典の回路の2つの設計値が、量子化すると準位の間隔とゆらぎの比を決める量に読み替わる。
例題 2.5.6 電荷表示の LC 回路と、2つの流儀の基底状態 ★★
オリジナルLC 回路を電荷表示 (2.5.32) で考える。
- (1) Φ^=iℏ∂Q が [Φ^,Q^]=iℏ を満たすことを、試験関数 ψ~(Q) に当てて確かめよ。
- (2) 基底状態を ψ~0(Q)∝e−Q2/(4Qzpf2) と置き、Schrödinger 方程式に入れて Qzpf2=ℏ/(2Z) とエネルギー ℏω/2 を確かめよ。
- (3) 電荷の流儀(座標 q、運動量 Φk)で同じ基底状態を書くと、運動量表示の波動関数は Φk の Gauss 関数になる。その幅を Φzpf で書き、(2.5.30) の符号が基底状態に現れない理由を述べよ。
解答
(1) [Φ^,Q^]ψ~=iℏ∂Q(Qψ~)−Qiℏ∂Qψ~=iℏψ~。
(2) ψ~0=e−λQ2 とすると ∂Q2ψ~0=(4λ2Q2−2λ)ψ~0。方程式 −2Lindℏ2∂Q2ψ~0+2CQ2ψ~0=Eψ~0 の Q2 の係数から−2Lindℏ24λ2+2C1=0、すなわち λ=2ℏ1Lind/C=2ℏZ。λ=1/(4Qzpf2) と比べて Qzpf2=ℏ/(2Z)。定数の項から E=2Lindℏ22λ=2ℏLindℏ2Z=2LindCℏ=2ℏω。
(3) 電荷の流儀の運動量は Φk=−Φ なので、その表示の基底状態は e−Φk2/(4Φzpf2) で幅 Φzpf=ℏZ/2。Gauss 関数は偶関数なので Φk→−Φk で変わらず、符号は基底状態に現れない。符号が現れるのは ⟨Φ^⟩=0 の状態(例題 2.5.3 の平行移動した状態など)の向きを読むときである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com